(第30回 家の光童話賞 佳作)
「まじめなカボチャ」
しいなさいち
まじめなカボチャなのですが、かたちがよくありません。あたまのさきがとんがっていて、どうにもカボチャらしくないのです。
まじめでなくとも、かたちのよいカボチャは、おきゃくさんにかわれていきます。
みんなうれてしまって、まじめなカボチャだけ、ポツンとうれのこってしまいました。
そのひからやおやさんに「うれないカボチャ」と、いわれるようになりました。
ねふだがはんがくになりました。てにとるひとはいますが、だれもかってはいきません。カボチャは、まじめすぎるのかなあとおもいました。いや、もっとまじめでいこう。でも、もしきょうもだめなら、まじめなんてやめるんだ。
「このうれないカボチャ、どうする」
やおやさんがみせさきでとりあげたときです。
「いいですねえ、それ」
とおりがかったおじいさんがこえをかけました。
「やあ、こいつはいい。こんなやつをさがしていたんですよ」
やおやさんはふしぎなかおです。
「これをぜひ、わたしにゆずってください」
やったー、やったぞ。ようやくみつけてもらった。カボチャはおおよろこびです。
こうしてカボチャはおじいさんのいえへつれていかれました。
いつたべられるのかな、まじめなカボチャはまじめにかんがえました。そのひも、つぎのひもそのままです。すこししんぱいになりました。
にちようのあさ、おじいさんはカボチャをバッグにいれでかけました。ついたのはがくしゅうセンターです。これからえのきょうしつがひらかれるのです。
「はじめてなもので、これでもかこうかと」
すこしはずかしそうに、おじいさんはカボチャをとりだし、まんなかのつくえにおきました。
「なかなかいいかたちですな、いいかんじだ」
せんせいはてにとって、じっとながめています。
となりのおんなのひともほめてくれました。
「なにをモデルにしてよいかわからず、えをかかれるひとにきいたら、カボチャなんかどうですかって。できればちょっとかたちのかわったやつがさいこうですよ、なんていわれまして」
おじいさんはあたまをかきました。
かたちがわるくてだれにもみむきもされなかった、そんなカボチャが、えのモデルになれるなんて、ほんとうにしんじられないはなしです。
それからしゅうにいちど、カボチャはおじいさんにつれられ、きょうしつでモデルになりました。みぎにひだりにむけられ、いいなあとほめられました。カボチャはてれくさくてなりませんでした。
たまにせんせいがようすをみにきます。
「こうやってさわってみて、でこぼこしているでしょう。めでみるだけでなく、ふれてみて、そのもののかんじをつかんでみましょう」
なるほど、なるほど。おじいさんは、てでカボチャにふれ、そのはだをなでました。カボチャはとってもきもちがよくて、ずっとこうしていられたらとおもいました。
えはしあがり、さいごにせんせいがいいました。
「はじめてでしたね。よくがんばりました」
「せんせいからほめていただけてこうえいです」
おじいさんはすっかりうれしくなって、えをもって、おおいそぎでいえへかえりました。
「どうだ、おじいちゃんがかいたんだぞ」
まごのおとこのこがふしぎそうにききました。
「おじいちゃん、これなに?」
「みてわからんか。カボチャだ、カボチャ」
「へんなの。カボチャはこんなかたちしてないよ。こんなにあたまがとがってないもん」
おじいさんは、こまったなあとかんがえました。
「はっはあ、そうか。それじゃあ、どんなあじがするか、ひとつたべてみるか」
とカボチャをバッグからとりだしました。
「わー。たべる、たべる」
と、おとこのこはおおはしゃぎです。
おじいさんはだいどころでじゅんびにかかりました。カボチャをきるうでにちからがはいります。
ようやく、ほくほくのカボチャスープができあがりました。ふたをあけると、ふわーっとゆげがたちのぼり、いいにおいがしました。
おじいさんはしみじみと、おとこのこはふーふーいってカボチャをくちにすると、「おいしい」と、こえをそろえました。
おもいもよらぬことばでした。まじめなカボチャは「おいしい」といわれたのです。あのひおじいさんにあわなかったら、こんなことばをきくことはなかったでしょう。
モデルもそれはよかったけれど、「おいしい」といってもらえることのほうが、うれしいにきまっている。これほどしあわせなカボチャは、どこにもいないよなあ。
ほかのカボチャがうらやましくなかったし、みじめでもなかった。これがじぶんなんだし……。これからもずっとこのままでいこう。
「こんなにうまいカボチャは、みんなにいっぱいたべてもらわんと」
おじいさんはかおをほころばせ、おなべにふたをしました。
まじめなカボチャは、あんまりしあわせすぎたので、とろとろと、とけてしまいました。
視点移動がものすごく効果的で、さすが! と思いました。
「まごのおとこのこ」という表現が絶妙だと思いました。「おとこのまご」だとニュアンスが違う気がしますし、「おとこのこのまご」だと誰の孫なのかわからない。「おとこまご」だと大泉逸郎さんっぽいです。
ラストは、雪の日に気持ちのいい温泉につかった感じで、まさに「とろとろ」って読後感でした。
秋の大風呂敷さん、ありがとうございます。
返信遅くなってすみません。
視点移動と、「まごのおとこのこ」については、
自分では意識していなかったので、いわれてみてなるほどと、納得しました。
作品を創作するうえで、大変勉強になりました。
これからも、よろしくお願いします。