みどり城のおひめさま

(2021年 家の光童話賞 佳作)

みどり城のおひめさま

大森 あるま

北の地に、みどり城とよばれるお城がありました。
朝と夜の気温が大きくちがう春さきに、お城でおひめさまが次々とうまれました。
みんなで五人のおひめさまです。
おひめさま姉妹はすくすくと育ち、桜の花が終わるころ、五月におひろめをするのがならわしです。
おそろいのドレスは白色で、うすいピンクのフリルがついています。
ドレスを着て金色に輝くティアラを頭にのせたおひめさまたちは、みんなよく似た顔をしていました。
でもよくよく見てみると、大きかったり、ほほの色が明るかったりと、ひとりひとり少しずつちがいます。
そんなおひめさまたちは一緒に育ち、たいそうなかよしでした。

ある夜、おひめさまたちがそろって、なにやら深刻に話しこんでいました。
「きっとそれは、一番上のおねえさまだわ」
「もしかしたら、背が高い二番目のおねえさまかもしれないわ」
「いいえやっぱり、明るい色の三番目のあなたかもよ」
「いいえ、まんなかにいるおねえさまだわ」
「そうなったときはおねえさま、あたしたちのぶんまでがんばってくださいね」
そんな会話がずっと続いていたのです。

これはみどり城のきまりで、明日になるとこのお城にはおひめさまは一人しかいてはいけないということなのです。
選ばれたひとり以外のおひめさまたちは、外へ旅立つしかないのです。
しかも、それがどのおひめさまになるのかは当日までわかりません。
おひめさま姉妹たちは、そんなおたがいの行く末をいたわりあっていたのでした。

そしていよいよ朝になりました。
女官が、おひめさまを呼びにきました。
「あたしは、旅立つことになりました」
そう言って、一番末のおひめさまがお別れのあいさつをしました。
「おねえさまたち、ごきげんよう」
また女官が、おひめさまを呼びにきました。
「こんどはわたしよ。さようなら」
そう言うと、四番目のおひめさまが手をふりふり出かけていきました。
次に呼ばれた三番目のおひめさまが涙ながらに出発しました。
最後に呼ばれた二番目のおひめさまが、まんなかにいるおひめさまにごあいさつをしました。
「どうか、お元気でおすごしくださいね」
「ありがとう」

こうしてみどり城には、ひとりのおひめさまだけが残されることになりました。
ところが、たったひとりになったおひめさまは、さみしくてしかたありません。
その夜はずっと泣きつづけていたのでした。

翌朝になりました。
トン、トン、トン。
お城の部屋をノックをする音がしました。
おひめさまが顔をあげると、そこに王子さまが立っていました。
小顔の王子さまは手足が長く、金の羽のようなマントをまとっています。
「はじめまして、おひめさま」
そうあいさつした王子さまは、それから毎日のようにたずねてきてくれました。

ある日には、すてきな声で歌ってくれました。
ある日には、食事をとどけてくれました。
そして、ある日にはダンスをしてくれました。
おひめさまは王子さまとすごすのがすっかり楽しくなりました。
そして、王子さまが運んでくれるたくさんの食事でどんどん太っていきました。

秋になりました。
ベッドから起き上がったおひめさまは、鏡で姿を映してみました。
そして、おどろいたのなんのって。
だっておひめさまは・・・。

そこで、おばあちゃんの話が止まりました。
おばあちゃんはふみ台に立って「花摘み」の作業をしながら、姉妹にお話をしてくれていたのです。
ちいさな姉妹も、手が届く低い枝のところでおばあちゃんにならってお手伝いをしていました。
あたり一面は、摘まれたお花でまっ白なじゅうたんのようです。

「それで、おひめさまはどうなっていたの?」
姉妹は知りたくてたまりません。
「うふふ。おひめさまはね・・・」
「おひめさまは?」
「まっ赤なおいしいりんごになっていたのでした!」
「わぁー! りんごー!」 
「摘まれてしまったほかの花のためにも、残ったお花が大きく育つといいね」
「そうだね!」
姉妹が花摘みするりんごの樹から、マメコバチがぶーんぶんと飛んでいきました。
(おしまい)